平成30年民法,遺言制度に関する改正

遺言制度に関する改正

A遺贈の担保責任(新民法998条関係)

平成29年法律第44号の債権分野の法改正では,贈与の担保責任に関する規律の見直しが行われました。
贈与者は特定物か不特定物かを問わずに,契約内容に適合した物又は権利を引き渡すことが前提となるが,贈与の無償性に鑑み,贈与の目的として特定した時の状態で引渡し,又は移転することを約束したものと推定する規定が設けられました。(新民法551条第1項)

 

 遺贈も無償行為である贈与と同じように,贈与の規定を踏まえ,相続開始の時の状態で引渡し,又は移転する義務を負うこととした上で,遺言者が遺言において別段の意思表示をしたときは,その意思に従うこととされています。

参照条文 新民法998条(遺贈義務者の引渡義務)

遺贈義務者は,遺贈の目的である物又は権利を,相続開始の時(その後に当該物又は権利について遺贈の目的として特定した場合にあっては,その特定した時)の状態で引渡し,又は移転する義務を負う。ただし,遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは,その意思に従う。

B遺言執行者の権限明確化(新民法1007条,1012条〜1016条関係)

趣旨:遺言作成件数が増加している中,遺言執行者の果たす役割の重要性を鑑み,円滑な遺言の執行を促進するために具体的な権限等について規定が設けられました。

 

 第1007条第2項は相続人の手続き保障の観点から,遺言執行者が就職した場合には,遅滞なく,遺言の内容を相続人に通知しなければならないと定められました。相続人にとって,遺言執行者の有無は重大な利害関係を及ぼすことになります。
この規定は遺言執行者に就任した時が,新法施行後であれば適用されます。新法開始後に相続が開始した場合ではない点に注意が必要です。

 

 第1012条第1項,第1015条では遺言執行者の法的立場を明確にし,第1013条第2項において,善意の第三者保護規定が設けられました。旧法では第三者保護規定はなく,判例においても遺言執行者がある場合に相続人が遺言の執行を妨げる行為をしたときは,絶対的に無効とされていました。(大判昭和5年6月16日民集9巻550貢)

 

 しかし,特定遺贈がされた際に,遺言執行者の無い場合には民法177条の対抗関係で処理される事案もあり,遺言と遺言執行者の存在は第三者にとって不測の損害が生じる恐れもあります。
そこで遺言の存在を知り得ない第三者の保護を図る為にこの規定が設けられました。

 

 第1012条第2項,第1014条,第1016条では遺言執行者がおこない得る職務執行権限が明確にされました。不動産登記において,旧法下では「相続させる」旨の遺言では執行者の職務は顕在化しないとされていましたが,遺言においても登記が第三者対抗要件になるところ,執行者が「相続させる旨」の遺言でも登記手続きを行うことが可能と考えられます。

 

 第1014条第2項から第4項,第1016条の規定は,旧法主義になります。新法施行の後に作成された遺言から適用されます。(附則第8条第2項及び第3項)

参照条文 新民法1007条(遺言執行者の任務開始)

遺言執行者が就職を承諾したときは,直ちにその任務を行わなければならない。

 

2 遺言執行者は,その任務を開始した時は,遅滞なく,遺言の内容を相続人に通知しなければならない。

 

附則
(遺言執行者の権利義務等に関する経過措置)
第八条 新民法千七条第二項及び第千十二条の規定は,施行日前に開始した相続に関し,施行日以後に遺言執行者となる者にも,適用する。

 

2 (略)

 

3 (略)

参照条文 新民法1012条(遺言執行者の権利義務)

遺言執行者は,遺言の内容を実現するため,相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有する。

 

2 遺言執行者がある場合には,遺贈の履行は,遺言執行者のみが行うことができる。

 

3 (略)

 

附則
(遺言執行者の権利義務等に関する経過措置)
第八条 新民法千七条第二項及び第千十二条の規定は,施行日前に開始した相続に関し,施行日以後に遺言執行者となる者にも,適用する。

 

2 (略)

 

3 (略)

参照条文 新民法1013条(遺言の執行の妨害行為の禁止)

遺言執行者がある場合には,相続人は,相続財産の処分その他遺言の執行を妨げるべき行為をすることが出来ない。

 

2 前項の規定に違反した行為は,無効とする。ただし,これをもって善意の第三者に対抗することが出来ない。

 

3 前二項の規定は,相続人の債権者(相続債権者を含む。)が相続財産についてその権利を行使することを妨げない。

参照条文 新民法1014条(特定財産に関する遺言の執行)

前三条の規定は,遺言が相続財産のうち特定の財産に関する場合には,その財産のみに適用する。

 

2 遺産の分割の方法の指定として遺産に属する特定の財産を共同相続人の一人又は数人に承継させる旨の遺言(以下「特定財産承継遺言」という。)があったときは,遺言執行者は,当該共同相続人が第八九九条の二第一項に規定する対抗要件を備えるために必要な行為をすることができる。

 

3 前項の財産が預貯金債権である場合には,遺言執行者は,同項に規定する行為のほか,その預金又は貯金の払戻しの請求及びその預金又は貯金の解約の申入れをすることができる。ただし,解約の申入れについては,その預貯金債権の全部が特定財産承継遺言の目的である場合に限る。

 

4 前二項の規定にかかわらず,被相続人が遺言で別段の意思を表示したときは,その意思に従う。

 

附則
(遺言執行者の権利義務等に関する経過措置)
第八条 (略)

 

2 新民法第千十四条第二項から第四項までの規定は,施行日前にされた特定の財産に関する遺言に係る遺言執行者によるその執行については,適用しない。

 

3 施行日前にされた遺言に係る遺言執行者の復任権については,新民法第千十六条の規定にかかわらず,なお従前の例による。

参照条文 新民法1015条(遺言執行者の行為の効果)

遺言執行者がその権限内において遺言執行者であることを示してした行為は,相続人に対して直接にその効力を生ずる。

参照条文 新民法1016条(遺言執行者の復任権)

遺言執行者は,自己の責任で第三者にその任務を行わせることができる。ただし,遺言者が遺言に別段の意思を表示したときは,その意思に従う。

 

2 前項本文の場合において,第三者に任務を行わせることについてやむを得ない事由があるときは,遺言執行者は,相続人に対してその選任及び監督についての責任のみを負う。

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