相続の効力等に関する改正として,
@法定相続分を超える権利の承継についての対抗要件主義
A相続分の指定がされた場合における債務の承継です。
新民法第899条の2第1項により,相続させる遺言においても登記や登録等の第三者対抗要件を備えなければ,その遺言において法定相続分を超える権利の取得を第三者に対抗することが出来なくなりました。
改正法施行前においては,遺言による権利変動で相続を原因とするものについては対抗要件を備えずとも第三者に対抗できると判示されていました。ここでの弊害として,遺言の有無や内容を知り得ない相続債権者や被相続人の債務者,第三者等に不測の損害をもたらす可能性が指摘されていましたが,今般取引安全確保の規定が設けられました。
新民法第899条の2第1項は,相続の開始が施行日よりも前であれば旧法が適用されることとされています。同第2項の債権を承継した場合の債務者に対する承継内容の通知の規定は,附則第3条により,施行日前に開始した相続に関し遺産分割による債権の承継がされ,施行日以後にその承継が通知されたときにも適用することとされています。
相続による権利の承継は,遺産の分割によるものかどうかにかかわらず,次条及び第九百一条の規定により算定した相続分を超える部分については,登記,登録その他の対抗要件を備えなければ,第三者に対抗することができない。
2 前項の権利が債権である場合において,次条及び第九百一条の規定により算定した相続分を超えて当該債務を承継した共同相続人が当該債権に係る遺言の内容(遺産の分割により当該債権を承継した場合にあっては,当該債権に係る遺産の分割の内容)を明らかにして債務者にその通知をしたときは,共同相続人の全員が債務者に通知をしたものとみなして,同項の規定を適用する。
附則
(共同相続における権利の承継の対抗要件に関する経過措置)
第三条 第一条の規定による改正後の民法(以下「新民法」という。)第八百九十九条の二の規定は,施行日前に開始した相続に関し遺産の分割による債権の承継がされた場合において,施行日以後にその承継の通知がされるときにも,適用する。
遺言で法定相続分とは違う相続分の指定がされていて,かつ被相続人に債務がある場合,その債権者は相続人に対して債務の支払いを請求できますが,債権者はその場合でも各相続人に対し,法定相続分に応じた割合で請求する権利があります。
今般の改正では,基本的なこの判例の考え方を明文化するとともに,債権者が指定相続分に応じた債務の承継を承認することにより,その指定相続分に応じた額の権利行使を各相続人にできるように定められました。注意点として,債権者がこの指定相続分に応じた債務の承継を承認すると,その後は指定相続分に応じた権利行使しか出来なくなります。
被相続人が相続開始の時において有した債務の債権者は,前条の規定による相続分の指定がされた場合であっても,各共同相続人に対し,第九百条及び第九百一条の規定により算定した相続分に応じてその権利を行使することができる。ただし,その債権者が共同相続人の一人に対してその指定された相続分に応じた債務の承継を承認したときは,この限りではない。