民法改正の原始的不能の場合の損害賠償規定の新設に関する事項

民法改正の原始的不能の場合の損害賠償規定の新設に関する事項

原始的不能の場合の損害賠償規定の新設、債務不履行による損害賠償の帰責事由の明確化

平成29年改正、民法412条の2(履行不能)

債務の履行が契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして不能であるときは、債権者は、その債務の履行を請求することができない。

 

2 契約に基づく債務の履行がその契約の成立の時に不能であったことは、第四百十五条の規定によりその履行の不能によって生じた損害の賠償を請求することを妨げない。

履行不能

新設された条項です。
債務の履行が不能であるとき、債権者は債務を履行するよう請求することが出来ません。
債務の履行が出来ないかどうかは、契約内容や債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして判断されることになります。

 

具体的には、購入した家屋が落雷により焼失した場合(物理的不能)や、不動産が二重に売買されて他の一方に登記までされてしまった場合(法律的不能)などが考えられます。
これらは契約後に履行不能となってしまった場合のことです。(後発的不能)

 

そして契約前から不能であった場合(原始的不能)にはどうなるのか、という明文の規定はありませんでしたが、今般の改正により民法第412条の2第2項において、民法第415条の規定により損害賠償請求できることが明文化されました。

平成29年改正、民法415条(債務不履行による損害賠償)

債務者がその債務の本旨に従った履行をしないとき又は債務の履行が不能であるときは、債権者は、これによって生じた損害の賠償を請求することができる。ただし、その債務の不履行が契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして債務者の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない。

 

2 前項の規定により損害賠償の請求をすることができる場合において、債権者は、次に掲げるときは、債務の履行に代わる損害賠償の請求をすることができる。
 一 債務の履行が不能であるとき
 二 債務者がその債務の履行を拒絶する意思を明確に表示したとき。
 三 債務が契約によって生じたものである場合において、その契約が解除され、又は債務の不履行による契約の解除権が発生したとき。

債務不履行による損害賠償

債務者が約束した通りの債務を履行しない場合や、債務を履行することが出来ないときの損害賠償請求に関する規定です。

 

商品を購入した人が代金を支払ったにも関わらず、約束期日に商品が届かないことにより損害が生じた場合、商品購入者は売主に対しその損害を賠償するように請求することが出来ます。
ただし、その商品引き渡し債務の不履行が債務者の責任ではない場合には損害賠償請求が出来ないというような内容の規定が本条第1項です。

 

本条第2項の損害賠償の規定は、債務の履行に代わる損害を賠償請求する際の規定です。(填補賠償)
債務の履行がされたのと等しい状態になるだけの請求(填補賠償)が出来る場合として1号から3号まで明文化されました。
@債務の履行が不能であるとき、A債務者が債務の履行を拒絶する意思を明確にしたとき、B契約により生じた債務において、その契約が解除され、又は債務不履行に基づく解除権が発生したときに賠償請求出来ると規定されました。

 

例としては、物を借りていた人がその物を借りた人のミスで借りていた物を壊して返却することが出来なくなってしまった場合に、物を貸した人はその貸した物と同等額の金銭を請求し、損害を賠償してもらうようなケースが填補賠償です。

平成29年改正、民法416条(損害賠償の範囲)

債務の不履行に対する損害賠償の請求は、これによって通常生ずべき損害の賠償をさせることをその目的とする。

 

2 特別の事情によって生じた損害であっても、当事者がその事情を予見すべきであったときは、債権者は、その賠償を請求することができる。

損害賠償の範囲

第1項に変更はなく、第2項に変更がありました。旧民法420条1項は下記の規定でした。

 

2 特別の事情によって生じた損害であっても、当事者がその事情を予見し、又は予見することができたときは、債権者は、その賠償を請求することができる。

 

アンダーラインの箇所が「予見すべきであったときは、」と変更されました。

平成29年改正、民法420条(賠償額の予定)

当事者は、債務の不履行について損害賠償の額を予定することができる。
2 賠償額の予定は、履行の請求又は解除権の行使を妨げない。
3 違約金は、賠償額の予定と推定する。

賠償額の予定

改正前の民法420条1項は下記の通りでした。
当事者は、債務の不履行について損害賠償の額を予定することができる。この場合において、裁判所は、その額を増減することができない。

 

今回の民法改正により民法420条1項の後段アンダーラインの部分が削除されました。
契約時にあらかじめ損害賠償額を定めておくことが出来ますが、債務者にとってあまりにも過大な場合の損害額が予定される場合がありました。

 

そのような場合には、民法90条の公序良俗違反の規定を利用し、一部を無効とするような裁判実務が行われていました。
また利息制限法や消費者契約法の規定により一部無効とされる場合もあります。現在の訴訟実務に即した形に改められたものと思われます。

平成29年改正、民法422条の2(代償請求権)

債務者が、その債務の履行が不能となったのと同一の原因により債務の目的物の代償である権利又は利益を取得したときは、債権者は、その受けた損害の額の限度において、債務者に対し、その権利の移転又はその利益の償還を請求することができる。

 

代償請求権

判例が明文化された新設の規定です。
代償請求権の代表的な判例として、昭和41年12月23日最高裁判所第二小法廷判決があります。

 

建物を移転する前に火災により建物が焼失したため、債務者は建物引渡債務を履行することは出来なくなりましたが火災保険金を受領しました。このような債務者が、建物引渡債務の目的物の代償と考えられる利益を取得した場合、公平の観念に基づき、債権者において債務者に対し、履行不能により債権者が蒙りたる損害の限度において、その利益の償還を請求する権利を認めるのが相当であるという内容の判例です。