債権者は、自己の債権を保全するため必要があるときは、債務者に属する権利(以下「被代位権利」という。)を行使することができる。ただし、債務者の一身に専属する権利及び差押えを禁じられた権利は、この限りでない。
2 債権者は、その債権の期限が到来しない間は、被代位権利を行使することができない。ただし、保存行為は、この限りでない。
3 債権者は、その債権が強制執行により実現することのできないものであるときは、被代位権利を行使することができない。
債権は、債権者が債務者に対して一定の行為を請求する権利であり、債務者に対してその効力を主張できるのは債権者というのが原則です。
例えばBがCに金銭を貸付けている状況において、BがAから金銭を借り受けていたとしても、BC間の金銭の貸し借りについてAは干渉する立場に無いということです。
しかし、Bに他に財産らしいものが無く、BのCに対する金銭債権が時効により消滅しそうな場合にも、Bの債権者であるAは何もできないのでしょうか。
このような場合に、債務者Bの責任財産を保全するため、一定の要件のもと債権者Aに認められている権利が債権者代位権です。
上記のような場合では、債務者Cの債権者であるBにAが代位して、AからCに対しBC間の金銭債権の返還請求等をすることにより、BC間の金銭債権の時効消滅を防ぐことが出来ます。
改正後民法423条条文の債権者代位権の要件は、次のとおりです。
1.債権者が自己の債権を保全するため必要であること
2.債務者の一身に専属する権利及び差押えを禁じられた権利でないこと
3.債権者の債権の期限が到来(保存行為を除く)
4.債権者の債権が強制執行により実現することが可能
債権者は、被代位権利を行使する場合において、被代位権利の目的が可分であるときは、自己の債権の額の限度においてのみ、被代位権利を行使することができる。
「被代位権利の目的が可分であるとき」とは、債権を分けることが出来るときと言うことです。金銭債権はその典型例です。
先ほどの事例で言えば、AがBに200万円を貸していて、BがCに300万円を貸していた場合には、Aが債権者代位権を行使してCに請求できる金額は200万円が限度ということです。
BがCに対して有する権利(被代位権利)が不可分の場合にはこの限りでは無く、全部について代位権を行使出来ます。
不可分債権の典型例は物の引き渡しを求める権利です。
債権者は、被代位権利を行使する場合において、被代位権利が金銭の支払又は動産の引渡しを目的とするものであるときは、相手方に対し、その支払又は引渡しを自己に対してすることを求めることができる。この場合において、相手方が債権者に対してその支払又は引渡しをしたときは、被代位権利は、これによって消滅する。
金銭の支払いや動産の引渡しは、請求者に対して行うことが可能であり、この場合には、代位された権利は消滅する旨が明文化されました。
AがBに対し、200万円の金銭債権を有している場合において、BのCに対する200万円の金銭債権を代位してAがCに200万円を請求した場合、Bではなく、CからAに直接支払うように請求することが出来ます。
そしてCからAに200万円が支払われた場合には、BC間の金銭債権はAへの弁済にはなりますが、金銭債権は消滅します。
債権者が被代位権利を行使したときは、相手方は、債務者に対して主張することができる抗弁をもって、債権者に対抗することができる。
相手方とは上記登場人物Cのことです。AがCに対して債権者代位権を用いて被代位権利を行使してきた場合に、CがBに対して主張できる抗弁があれば、Aに対してもその抗弁を主張することが出来ると規定しています。
つまり、CがBに対してすで弁済していた場合や、時効により債権が消滅していた場合等、Bに対して債権を抗う事由があればそれをAに対しても抗うことが出来るということです。
債権者が被代位権利を行使した場合であっても、債務者は、被代位権利について、自ら取立てその他の処分をすることを妨げられない。この場合においては、相手方も、被代位権利について、債務者に対して履行をすることを妨げられない。
債権者Aが債務者Bに代位してCに権利を行使したとしても、債務者Bは自らに権利を行使するようCに請求出来ます。従来の判例と異なる規定です。
このような場合において、CはBに対して履行をすることを妨げられません。CはBに弁済することも可能です。
この規定は、被代位権利が生じた時が施行日以後であれば適用されます。
(債権者代位権に関する経過措置)
附則第18条 施行日前に旧法第423条第1項に規定する債務者に属する権利が生じた場合におけるその権利に係る債権者代位権については、なお従前の例による。
債権者は、被代位権利の行使に係る訴えを提起したときは、遅滞なく、債務者に対し、訴訟告知をしなければならない。
債権者が訴訟で被代位権利を行使した場合には訴訟告知をすることが義務付けられました。訴訟告知とは、訴訟が提起されたことを利害関係のある第三者に告知する裁判上の手続きです。
この債権者による訴訟告知により、被代位権利を行使すべく債権者が訴訟提起したことを債務者は知ることが出来ます。
債権者代位権を行使した場合の債権者Aの訴訟の相手方は、債務者Bではなく、Bの債務者であるCです。しかしこの判決の効力は債務者Bにも及ぶことになります。
本規定により、訴訟上で債権者代位権が行使された場合、債務者Bが訴訟に参加する機会を、きちんと設けられることになったのではないでしょうか。
登記又は登録をしなければ権利の得喪及び変更を第三者に対抗することができない財産を譲り受けた者は、その譲渡人が第三者に対して有する登記手続又は登録手続をすべきことを請求する権利を行使しないときは、その権利を行使することができる。この場合においては、前三条の規定を準用する。
不動産の所有者であること(物権変動)を第三者に対抗するための要件は登記です。その意味での第三者が一番最初の「第三者」という言葉です。
その財産を譲り受けた人が、代位して行使できる権利は、譲り渡した人が第三者に対して有している登記請求権です。二番目の「第三者」の言葉は今まで登場してきたCの立場の人です。
CがBに不動産を売却し、何らかの事情で登記名義をBに変えずAに売却した場合に起こり得る事象かと思います。通常の不動産売買取引では、宅地建物取引士や司法書士が絡むケースが多いのであまり起こらないと思います。
しかしながら、C→B→Aと不動産の所有権が移転したにも係わらず、いまだ不動産がA名義の場合には、AはBに代位してCからBに登記を移すよう請求することが出来ます。
直接CからAに移転させることは出来ません。中間省略登記は原則的に認められていないからです。CからBに所有権移転登記をしたのち、AはBに対して登記するように請求していく形になると思われます。
この規定は、被代位権利にかかる登記、登録請求権が発生した時が施行日以後であれば適用されます。
(債権者代位権に関する経過措置)
第18条 (略)
2 新法第423条の7の規定は、施行日前に生じた同条に規定する譲渡人が第三者に対して有する権利については、適用しない。