民法改正の代理行為に関する事項

民法改正の代理に関する事項

平成29年改正、民法101条(代理行為の瑕疵)

代理人が相手方に対してした意思表示の効力が意思の不存在、錯誤、詐欺、強迫又はある事情を知っていたこと若しくは知らなかったことにつき過失があったことによって影響を受けるべき場合には、その事実の有無は、代理人について決するものとする。

 

2 相手方が代理人に対してした意思表示の効力が意思表示を受けた者がある事情を知っていたこと又は知らなかったことにつき過失があったことによって影響を受けるべき場合には、その事実の有無は、代理人について決するものとする。

 

3 特定の法律行為をすることを委託された代理人がその行為をしたときは、本人は、自ら知っていた事情について代理人が知らなかったことを主張することができない。本人が過失によって知らなかった事情についても、同様とする。

代理に関する事項(代理行為の瑕疵)

代理行為について、意思表示の効力が意思の不存在等により問題になる場合のルールです。原則的に代理人を基準にして考えることになります。民法101条1項は代理人がした意思表示、同条2項は相手方が代理人にした意思表示に関して代理人が悪意か有過失か等により法律効果に影響を与える場合のルールです。

 

旧法の条文は、「意思表示の効力が意思の不存在、詐欺、強迫又はある事情を知っていたこと若しくは知らなかったことにつき過失があったことによって影響を受けるべき場合には、その事実の有無は、代理人について決するものとする。」という文言でしたので、それぞれ分けて整備されました。

 

AがBに代理権を授与し、A代理人BとCの間で売買契約を締結した場合に、Bが騙されてCとの契約を締結したときは代理人Bを基準にして詐欺があったかどうかが判断されます。
同条2項の規定はCがA代理人Bに対して意思表示をした場合の規定ですが、A代理人Bの詐欺によりCがBに対してした意思表示は含まれません。この場合は民法96条1項の問題になります。

 

新民法101条2項の規定は相手方Cの意思表示がその意思表示をうけた者の悪意、有過失により法律効果に影響を与える場合に、代理人が悪意であったり、過失があったりするときの問題です。
仮にCが冗談(心裡留保)でA代理人Bに対し、甲を購入する意思表示をした場合、A代理人BがCが冗談で意思表示したことを知っていた場合(悪意)にはAがその事実を知らなかった(善意)としても代理人Bを基準にしてその事実の有無を考えるので、Cは売買契約の無効を主張することができることになります。

 

同条3項は本人が知っていた事情を代理人に伝えなかった場合、本人は代理人がその事情を知らなかったことを主張することは出来ず、本人がその責任を負うことになります。代理人が事情を知らなかったとしても本人がその事情を知っていれば、相手方の事情を知っている本人を保護する必要は無いと評価されます。本人が過失により知らなかった事情についても同様の規定です。

平成29年改正、民法第102条(代理人の行為能力)

制限行為能力者が代理人としてした行為は、行為能力の制限によっては取り消すことができない。ただし、制限行為能力者が他の制限行為能力者の法定代理人としてした行為については、この限りでない。

代理に関する事項(代理人の行為能力)

どのような人を代理人にするのかは本人が決めることが出来るのが原則です。被後見人等の制限行為能力者を代理人とすることも可能ですが、その結果責任は選任した本人自らが負うことになりますので代理人が被後見人等であったとしても、そのことを理由に本人は代理人が行った代理行為を取り消すことが出来ません。

 

ただし、法定代理人が制限行為能力者であった場合に、その法定代理人が行った他の制限行為能力者の代理行為については取り消すことができます。
制限行為能力者Aの法定代理人Bが制限行為能力者である場合に、BがAの代理人として行った法律行為を取り消すことができることになります。Aは自ら法定代理人Bを選任した訳ではないので、Aの保護を図る必要があるからです。

平成29年改正、民法第105条(法定代理人による復代理人の選任)

法定代理人は、自己の責任で復代理人を選任することができる。この場合において、やむを得ない事由があるときは、本人に対してその選任及び監督についての責任のみを負う。

代理に関する事項(法定代理人による復代理人の選任)

旧法105条(復代理人を選任した代理人の責任)
 代理人は、前条の規定により復代理人を選任したときは、その選任及び監督について、本人に対してその責任を負う。
2  代理人は、本人の指名に従って復代理人を選任したときは、前項の責任を負わない。ただし、その代理人が、復代理人が不適任又は不誠実であることを知りながら、その旨を本人に通知し又は復代理人を解任することを怠ったときは、この限りでない。
は削除されました。
これにより、任意代理人が本人に対して負う責任は債務不履行原則の一般原則に従い判断がされます。

 

法定代理人が復代理人を選任した場合の本人に対して負う責任の範囲等の規定については、民法第105条(法定代理人による復代理人の選任)において維持されています。

平成29年改正、民法第107条(代理権の濫用)

代理人が自己又は第三者の利益を図る目的で代理権の範囲内の行為をした場合において、相手方がその目的を知り、又は知ることができたときは、その行為は、代理権を有しない者がした行為とみなす。

代理に関する事項(代理権の濫用)

代理人が代理権の範囲内で自分の利益や第三者の利益を図る目的で代理権を濫用した場合の規定です。
取引の相手方は代理権の範囲内で代理人が職務を遂行しているので、代理人が自分の利益のために代理行為をしたと知るのは難しい部分があります。
このように代理権を濫用した場合でも相手方に落ち度がない場合は、原則的に有効な代理行為となり、本人に契約の効果が帰属することになります。

 

しかし、相手方がその代理人が自分の利益のために代理行為をしていると知っていた場合、または知ることが出来た場合にまで相手方を保護する必要は無いと考えられます。このような場合については、権限が無い代理人がした代理行為とみなし、本人に契約等の法律効果が帰属しないこととなります。

 

判例は心裡留保(93条ただし書き)の規定を類推適用し、代理人が行った法律行為を無効として取り扱っていましたが、今般の改正により無権代理行為とみなされることが明文化されました。

平成29年改正、民法第117条(無権代理人の責任)

他人の代理人として契約をした者は、自己の代理権を証明したとき、又は本人の追認を得たときを除き、相手方の選択に従い、相手方に対して履行又は損害賠償の責任を負う。

 

2 前項の規定は、次に掲げる場合には、適用しない。
 一 他人の代理人として契約をした者が代理権を有しないことを相手方が知っていたとき。
 二 他人の代理人として契約をした者が代理権を有しないことを相手方が過失によって知らなかったとき。ただし、他人の代理人として契約をした者が自己に代理権がないことを知っていたときは、この限りでない。
 三 他人の代理人として契約をした者が行為能力の制限を受けていたとき。

 

代理に関する事項(無権代理人の責任

 

他人の代理人として契約をしたその行為が無権代理としてみなされた場合、その行為をした者は相手方に対して責任を負うことになります。

 

民法117条2項では責任を負わない場合の規定が書かれていますが、例外的に責任を負う場合として、同上2項2号のただし書きにより、無権代理人が代理権がないことを知って無権代理行為をしていた場合には、相手方が過失により代理権が無いことを知らなかったときでも、無権代理人としての責任を負うことになります。


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